原色日本のラン/前川文夫/日本の野生のランを実物大にしかも着色で生きているままの姿を描いた図譜がほしいものだという願いが熟して15年

商品説明
原色日本のラン/前川文夫/日本の野生のランを実物大にしかも着色で生きているままの姿を描いた図譜がほしいものだという願いが熟して15年

昭和46年 495P 21.5㎝×30.5cm ゆうメール・レターパック規格外 部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。

思えば永い年月であった。

日本の野生のランを実物大に、しかも着色で生きているままの姿を描いた図譜がほしいものだという願いが熟して出発してから15年に近い日がたってしまった。一昔以上であ る。多くの人々の陽となり陰となっての好意と善意とによって描画は順調に進んだ。私もこれだけのランを調べるのに張りがあった。

資料を集めまた育てる鈴木吉五郎さんをはじめ皆さんの努力で材料はどんどん集まり、それを太田洋愛さんに描いてもらった。当時私は東大理学部付属植物園,つまり小石川植物園長を兼 ねていたので,園長室がおもな作業場になった。まず2年間は描画と資料の整理にかける予定であった。が1年しないうちに私が半年病院入りをすることになり,これは痛かったが描画は大部分をすますことができたのは幸いであった。入院の後半年には,私自身もルーペをのぞきながら花の部分図を描いた。今回解説中の挿図にもそれらがはいっている。2年たつと材料は入手のむずかしいものが残って,それからは進行が容易ではなくなったが,折をつかんでは描きためた。日本のチベットという岩手県の安家(アッカ)に鈴木さんと2人で出掛け, 細井幸兵衛さんに案内を願って山を歩きアオキランを尋ねて見当たらず,日暮れのせまったサワグルミの林床に偶然にその群落を見いだしたときの感激は今思い出しても身内をかけ巡る。

出版が遅れたのは私の怠慢が大きい。御世話下さった方々に心から御詫びを申し上げる。気にしながら、 なかなか筆が進まなかったのについては言訳のようで恐縮であるが事情もあった。私自身が1960年に展開した古赤道分布論と,それに続く染色体減少による進化説とは当然日本のランの進化と分布のうえにもその原因を投げ,結果を与えたはずである。私はこれをこの著書に反映させたかった,いやむしろ学問の責任上そうあるべきであったからそれをどう繰り込むかに心を砕いた。しかしそれは日本ひいてはアジアのランだけでなくもっと広く考察し直さねばならなかったし, ラン以外の植物群にも平行して検討を加える必要があり容易のことではなかった。見ていただくとおわかり下さると思うが,まだまだ未整頓のところも多く残ってはいるけれどこの2つの見解が良かれ悪しかれ強く出ているはずである。これは本書の特色の1つである。

日本のランの種類を単位とした図譜でありながら,なるべく世界の中での位置で考察するという立場がとってある。それで図版の解説にとどまらず,属を基礎としての記述,むしろ論議という点に重点が置かれるようになっている。これも類書にはないところといささか自負している。しかし意あって力足らずの心配のたねも所々にあることはお愧しいしだいである。

また野生ランと銘を打ちながら,日本で園芸化され、日本人の生活に強く溶け込んだもの,たとえばシナシュンランなどはシュンランと対比させながら植物学的な分化と変異の問題として取り上げ,カンランやフウランと並んでその見地での図版も添えた。これも1つの特色であろう。海外の関心を持たれる方々や関係方面のことを考えて英文摘要を巻末に用意した。

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